「完成車についていたから」「みんなが使っているから」
そんな理由で、なんとなく170mmクランクを使い続けていませんか?
50代を過ぎてから、ライドの後半に膝へ鈍い違和感が走ったり、下ハンドルを握った瞬間に「お腹が詰まって呼吸が浅くなる」経験はないでしょうか。体力不足でも練習不足でもなく、道具があなたの身体に合っていないだけかもしれません。
わたしは数年前、170mmから165mm(ショートクランク)へ交換しました。その後、Zwiftと実走を合わせて5万km以上を走り込み、確信したことがあります。
「170mmに戻そうと考えたことは、一度もありません」
それどころか、今は160mmへさらに移行し、もう一段階の快適さを手に入れました。この記事では、アラフィフ・アラ還世代に特化した視点で、ショートクランクが持つ本当の意味をお伝えします。
- 世界のプロが「短いクランク」を選ぶ本当の理由
- 170mm→165mm交換で起きた3つの身体の変化(5万km実走検証)
- 50代の関節にショートクランクが合う理由
- 165mmの次「160mm」へ移行した経緯と感想
衝撃の事実:世界のトップ選手は身長に関係なく「短く」している
「背の高い欧米人は、長いクランクを豪快に回している」
そんなイメージを持っていませんか?かつてのわたしは「クランク長は身長の10分の1説」を根拠もなく信じ込み、170mmにすべきという思い込みがありました。しかし最新データを調べると、思っていたのとまったく違う現実が見えてきました。
主要選手の身長とクランク長
| 選手名 | 身長 | クランク長 | 実績 |
|---|---|---|---|
| ヨナス・ビンゲゴー | 175cm | 160mm | ツール・ド・フランス2連覇 |
| タデイ・ポガチャル | 176cm | 165mm | ツール総合優勝・世界王者 |
| レムコ・エヴェネプール | 171cm | 165mm | 五輪・世界選手権王者 |
| クリス・フルーム | 186cm | 175mm | 旧世代スタイルの代表例 |
ツール・ド・フランスを制するような選手たちが、わたしより背が高いにもかかわらず165mmや160mmを選んでいます。彼らが共通して優先しているのは「上死点での股関節屈曲の軽減」です。クランクが短くなることで上死点の足の位置が下がり、股関節が深く曲がらなくなる。その結果、より前傾したエアロポジションが取れるようになり、呼吸も楽になる——これは複数の研究で確認されているメカニズムです(※1・※2)。
実例として、ブラッドリー・ウィギンスがクランクを7mm短縮した際、空気抵抗が3.5%改善されたことが記録されています。また、元British CyclingフィジオセラピストのPhil Burtが蓄積したデータでは、トラック選手が172.5mmから165mmへ移行することでFTPが平均約15W向上したことが報告されています(※3)。
わたしたちアマチュアも、速さのためではなく「身体への負担を減らす」という目的でこのメカニズムを活用できます。
170mm→165mm交換で身体に起きた2つの変化と、変わらなかったこと

理屈はさておき、実際に交換してどう変わったのか。FC-RS200・FC-R7000の165mmクランクに換えて、5万km走破したわたしの身体に起きた変化をお伝えします。
① 膝の「あの違和感」がスッと消えた
これが最大の恩恵でした。
50代を超えて実感していることの一つに、筋肉よりも先に、関節に限界が来るというのがあります。脚が攣るよりも先に、膝が痛みが走ります。もうこれは避けられません。
クランクが5mm短くなることでサドルが5mm上がり、上死点では相対的に10mmの余裕が生まれます。膝を深く曲げる必要がなくなって、上死点の通過もスムーズ。関節への負担が確実に軽減されました。
② 「お腹のつかえ」がなくなり、呼吸が楽になった
膝と同じくらい気になっていたのが、ペダリングの窮屈感です。深く前傾すると太ももがお腹に当たってしまい、ワット数に関係なく息が詰まる——心当たりはありませんか?
クランクを短くすると、ペダルが上死点に来たときの足の位置が下がります。加えてサドルも上がることで、
- 股関節が深く曲がりすぎない
- 太ももとお腹の間に隙間ができる
この隙間のおかげで、お腹が肺を圧迫しなくなります。長い登りで以前より息が上がりにくくなったのは、心肺機能が向上したからではありません。自分の身体に合った道具を使ったから、それだけです。
③ ダンシングは……いまも迷走しています
最初は違和感がありました。階段の段差が微妙に変わったような感覚です。170mmと165mm——たった5mmの差なのに、体感的にはかなり違うのです。
ただ、ダンシングだけは今も迷走しています。これはクランク長のせいではありません。もともと苦手なうえに、練習が足りていないだけです。
クロスバイクでダンシングを使う場面はほとんどないので、必要に迫られないというのもあります。若いころは自然にできていたのに不思議です。
「たった5mm」でこれほど世界が変わる理由

「5mmでしょ?」と思われるかもしれません。でも、ペダルは円運動です。直径にすれば10mmの変化。1分間に90回転、1時間で5,400回転。
5,400回、毎回膝を深く曲げ伸ばしするか、余裕を持って回すか。
この積み重ねがライド後半の疲労感に——そして数年後の関節の健康状態に——大きな差を生むのです。
サドルを上げられる「副次的メリット」
クランクが5mm短くなると、ペダル下死点の位置が5mm上がります。つまりサドルを5mm上げることができます。そして上死点は5mm下がるので、サドルとの距離は合計10mm広がります。
50代こそショートクランクが必要な3つの理由
プロ選手が短いクランクを選ぶのはスピードのため。でも、わたしたち50代が短いクランクを選ぶべき理由は、もっと本質的なところにあります。
理由①:関節の可動域は年齢とともに確実に狭くなる
20代・30代の頃と同じように動けると思っていたら、それは要注意です。股関節・膝関節の可動域は、適切なケアなしでは加齢とともに徐々に狭まります。170mmクランクは、その「狭まった可動域」を毎回オーバーストレッチさせる道具になりかねません。
理由②:筋肉より先に関節が限界を迎える
50代の身体で最初に悲鳴を上げるのは筋肉ではなく関節です。脚が攣る前に膝が痛くなる——これは体力の問題ではなく、身体の構造的な変化です。クランク長を短くすることで、関節への負担を物理的に減らすことができます。
理由③:「長く走り続ける」ための持続可能な選択
速く走ることよりも、10年後・20年後も走り続けることの方が、わたしには大切です。ショートクランクは「走り続けるための投資」です。50代の身体の変化に、道具を合わせていくことも大事だと思っています。
「165mmで十分」と思っていたわたしが160mmへ移行した理由
165mmで5万km走り「これで十分」と思っていました。ところがさらに短い160mmを試してみたところ、もう一段階の快適さを発見してしまいました。
抗がん剤の副作用でお腹周りに少し肉がつきました。前傾姿勢がきつくなり、ペダリング時に脚を高く上げるのが辛い——そこで165mmから160mmへのショートクランク化を試みました。
アームのみ買って移植|160mm化は1万円ちょっとで済んだ
選んだのはShimano FC-R7000の160mmアーム。ギアなしのアームのみを購入し、手持ちのナローワイドギアを移植する作戦です。アームのみなら1万円ちょっとで買えるのが魅力でした。


5mmの差は「乗った瞬間」に分かった
正直、165から160mmへの5mm差なんて分からないかも——と思ってましたが、乗った瞬間に違いを実感しました。違和感ゼロどころか、むしろ漕ぎやすい。お腹のつかえが解消されて、前傾姿勢も楽になりました。
あわせてサドルも少し上げてポジションを最適化。フロントのギアも、このとき44Tから40Tへ同時に落としています。

まずは再開できてよかったです。
買ったのはこの2つ|アームのみか、パワーメーター付きか
コスパ重視ならアームのみのFC-R7000。
パワーメーターも欲しいならPシリーズという選択肢もあります。
ショートクランク化は体の状態に合わせたカスタムとして非常に有効でした。お腹周りが気になる方やペダリングに違和感がある方はぜひ検討してみてください。
ショートクランクのデメリットは?|「疲れる」「やめた」の前に知っておきたいこと
ショートクランクで検索すると「疲れる」「やめた」という言葉が一緒に出てきます。170mmから165mmで5万km走り、いまは160mmまで来た立場から、思っていることを書いておきます。
遅くなった?|そう感じたことは一度もありません
結論から書くと、遅くなったとは思いません。ヒルクライムでの感覚も変わりませんでした。
もっとも、わたしがクランクを短くしたのはパワーのためではありません。重視したのは快適さと漕ぎやすさです。クロスバイクなので、数ワットの違いよりも、出先から自宅まで続く快適性のほうが自分には大事でした。
ただ、近年のトッププロライダーも軒並みショートクランクにしています。パワー面でも有利なのだろうと思っています。
慣れるのに時間はかかる?|替えたその日から乗りやすかった
替えた日にもう乗りやすさを感じました。違和感はありません。160mmまで短くしても、短すぎると感じたことは一度もありません。
ペダリング全体は初日から馴染みました。「疲れる」「やめた」となる人がいるとしたら、身体が慣れる前に判断しているか、サドル高さを合わせ直していないのではないかと思います。クランクを短くしたら、サドルは上げ直す必要があります。
いちばんのデメリットは足つき|つま先立ちになります
実際に困ったのはここです。クランクを短くするとサドルを上げることになるので、そのぶん路面が遠くなります。信号待ちで片足だけ着こうとすると、つま先立ちが必須になりました。
わたしはランニングシューズで乗っているので問題ありませんが、ビンディングシューズだとクリートで滑りやすくなります。ここは気をつけたほうがいいと思います。
意外なメリット|ペダルが路面を擦りにくくなる
逆に、思っていなかった利点もありました。クランクが短くなったぶん、ペダルと路面のクリアランスが増えます。結果として、ペダルを擦りにくくなりました。
高速コーナーでバイクを傾ける人には、これはけっこう重要なことではないでしょうか。
軽量化は期待しないでください
まずここから。165mmクランク
170mmに戻そうと考えたことは、5万km走って一度もなかった。
- 膝の違和感が消えた——上死点に10mmの余裕が生まれるから
- 前傾でも呼吸が詰まらなくなった——股関節の屈曲が浅くなるから
- ダンシングは相変わらず苦手——クランク長ではなく練習不足
- 軽量化は期待しないこと。メリットは「身体への優しさ」
- 165mmで満足した後、さらに160mmへ移行した
- ※1 Martin JC, Spirduso WW. “Determinants of maximal cycling power: crank length, pedaling rate and pedal speed.” European Journal of Applied Physiology 84(5), 413–418, 2001. SpringerLink
- ※2 Barratt PR, Korff T, Elmer SJ, Martin JC. “Effect of crank length on joint-specific power during maximal cycling.” Medicine & Science in Sports & Exercise 43(9), 2011. ResearchGate
- ※3 Phil Burt(元British Cycling主任フィジオセラピスト)によるトラック選手データ。172.5mmから165mmへの移行でFTPが平均約15W向上。出典:Roadman Cycling Podcast。Roadman Cycling
- ウィギンスの空力改善データ(クランク7mm短縮→空気抵抗3.5%改善):British Cycling fit data、Roadman Cycling Podcast解説より
